「違いを越えた関わり」を夢見て。ニュージーランド留学から始まった、多文化共生への道
「国境や言語、文化の壁を越えて、全ての人々が互いに理解し、尊敬し合える多文化共生社会を創造したい」——上智大学外国語学部英語学科に合格した橋爪香歩さんが、高校生活を通じて掲げた志です。小学5年生のアメリカ短期ホームステイ、高校1年生修了後のニュージーランド1年留学、そしてブラジル人学校での日本文化教育。一見すると異なるこれらの経験が、やがて一つの目標「移民と日本人が共に生きられるコミュニティの構築」へと収束していきました。彼女の物語は、単なる「留学経験」ではなく、複数の異文化体験を通じて「相互理解とは何か」を問い続けた、その軌跡なのです。
「当たり前が当たり前ではない」——アメリカでの初めての気づき
橋爪さんの国際理解の道は、意外にも単純な疑問から始まりました。
小学5年生の時、アメリカへの短期ホームステイプログラムに参加した時のこと。そこで彼女は、「自分の中で正しいと信じ込んできた価値観が崩れていくような気がして」不安と興奮に包まれました。日本では「当たり前」だと思っていたことが、アメリカでは「当たり前ではない」のです。
その経験が、彼女の心に「新しい世界への興味」を芽生えさせました。
ニュージーランド留学:「多様性」が「普通」である世界
その興味は、やがて行動へと変わります。高校1年生の課程を修了した後、橋爪さんはニュージーランドへ1年間の留学を決意しました。
ニュージーランドで彼女が経験したのは、「多様性が普通である社会」でした。
教会が開催するyouth groupという、毎週ティーンネイジャーが集まるコミュニティ。そこには、ニュージーランド人だけでなく、アフリカからの移民や留学生がいました。韓国、ペルー、中国、フィンランド——様々な国から来た若者たちが、国籍に関係なく一緒にゲームをしたり、ピクニックに行ったり、自然に交わっていたのです。
「この場では、人と違うことが強さとされている。多様な意見があることが社会を前に進める力になる」
その体験が、彼女の心に深く刻まれました。
しかし同時に、彼女は「フィードバック」の重要性も学びました。
「私自身も留学した際、現地の習慣に精通しておらず、無意識にマナー違反をしてしまった。そのたびにホストファミリーや友人が『You can't do that』『You can't say that』と教えてくれた」
つまり、多様性を尊重する社会とは、単に「違いを許容する」だけではなく、「互いに学び合える関係」を築いている社会だったのです。

帰国後の違和感:日本での「移民問題」への疑問
しかし、日本に帰国した時、彼女は大きな違和感に直面しました。
「移民受け入れによる治安悪化」という言葉が蔓延していた日本社会。ニュースでは、外国人のマナー違反が槍玉に挙げられていました。
しかし、橋爪さんはニュージーランドで会った外国人たちは「マナーを蔑ろにするような人たちではなかった」と知っていました。
「もしかしたら、日本へ訪れる外国人の方にとっては当たり前のことが、日本ではマナー違反と言われてしまうのではないか。マナーを守らないのではなく、マナーを『知らないのではないか』」
その仮説は、やがて行動へと変わります。
「どうしたら、日本の慣習、文化、マナーを広められるのか」
その問いが、彼女の次の実践活動へと導くのです。
ブラジル人学校での実践:「教える」から「共に学ぶ」へ
その答えの一つが、ブラジル人学校での授業でした。
外国国籍の生徒や、他の国に住んでいた経験を持つ生徒が多く在籍する学校。そこで橋爪さんは120人のブラジル人の生徒に、日本の文化やマナーについての授業を行うプログラムを立ち上げました。
しかし、ここで彼女が大切にしたのは、「教師という立場」ではなく、「同じ高校生として」というスタンスでした。
「講義形式で事実を淡々と伝えるのではなく、アクティビティーを通じて日本の魅力を伝えることで、日本についてもっと知りたいと思う気持ちをより大きなものにしてもらえるよう、努力をしました」
つまり、彼女が実践したのは、ニュージーランドで学んだ「相互学習」なのです。一方的に「教える」のではなく、「互いに学び合える関係」を作ることだったのです。

政治家への聞き取り調査:問題の背景を探る
同時に、彼女は単なる現場活動だけに留まりませんでした。
アフリカの大使館との協力に力を入れている世田谷区議員に、「国際的な交流を促進する政策について」話を伺いました。
「真の共生社会とは何なのか」
その問いに、政策的なアプローチから迫ったのです。その中で彼女は気づきました。
「異なる文化、価値観を持つ人々への理解を深める必要性、コミュニケーション能力の大切さだけでなく、教育、経済、政治的要因への理解も求められている」
つまり、移民問題は単なる「文化的な違い」の問題ではなく、教育制度、経済格差、政治的背景——複数の要因が絡み合った、複雑な社会課題だったのです。
上智大学での学び:「複眼的な視点」を養う
橋爪さんが上智大学外国語学部英語学科を志望した理由は、明確でした。
「異文化理解には、複眼的な視点が必要である。単なる英語力だけではなく、文化、歴史、政治、経済といった多角的な知識を身につける必要がある」
上智大学の外国語学部は、言語学習に留まらず、歴史文化、国際関係、異文化コミュニケーションといった多様な領域を学べる環境です。
その中で彼女は、以下の学習を計画しています。
文化人類学を中心とした異文化理解 — 宗教や価値観、慣習について深く理解を深める。表面的な「違い」ではなく、その背景にある歴史的・宗教的背景に着目する。
国際関係学による社会的・政治的課題の理解 — 国と国との関係性を理解することは、個人間の相互理解にもつながる。マクロとミクロの両視点を意識した学修。
社会学、教育学、経済学といった横断的な学び — 多文化共生を実現するための包括的なアプローチを探求する。
「コミュニティ」から始まる、真の共生社会への道
橋爪さんが最終的に目指すのは、ニュージーランドのyouth groupのような、「国籍を越えて関わり合うコミュニティ」の構築です。
具体的には、ブラジル人学校と日本の学童が協力し、外国ルーツの子どもたちが「母語で深い学びを得ながら、同時に日本人との繋がりを持つ」ような場を作りたいと考えています。
学童は、学校とは異なり、「友達と交流する機会」が多くあります。もし、それがニュージーランドのyouth groupのように機能すれば、「真の共生」が実現するのではないか。そう彼女は考えています。
「同じ経験をした者だからこそ、できることがある」
橋爪さんの軌跡を見ると、一つの共通点が浮かび上がります。
彼女は「教育者」ではなく、「同じ立場の者」として相手に向き合っています。ブラジル人学校での授業でも「教師」ではなく「高校生」として登壇しました。それは、自分自身がアメリカやニュージーランドで「外国人として違和感を感じ、学び、成長した」経験を持っているからです。
「自分も経験した『文化のズレ』を、自分も『学ばせてもらった』立場から、相手に伝えることができる」
その姿勢が、真の相互理解を生み出すのです。
上智大学での4年間が、彼女を「複眼的視点を持った、真の国際人」へと育てるのは、彼女がすでにその基盤を持っているからなのです。
